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公開日:2026/09/17

正直不満はなかった。それでもSmartHRが給与計算をリプレイスした理由

目次

給与計算システムのリプレイスは、人事・労務担当者にとって大きな決断です。使い慣れたシステムに大きな不満がなければ、あえてリスクをとる理由は見えにくい。今のままでも運用できているし、リプレイスに失敗したら給与の支払いが止まってしまう。そう考えて検討が止まっている方は少なくないはずです。

実は、SmartHRの給与計算担当者も、かつては同じ気持ちでした。SmartHRは長年、他社の給与計算システムを使っており、2026年1月にSmartHRの給与計算機能へ完全リプレイスしています。そのリプレイスを実務の中心で担ったのが、給与計算担当の真田です。

真田自身、「正直、以前のシステムに不満はなかった」と振り返りますが、それでもSmartHRはリプレイスに踏み切りました。結果として、従業員数が増えるなかで給与計算業務の効率化を実現しています。本記事では、最大の壁になった「履歴データのクレンジング」の話など、リプレイスの実態を担当者の声とともにお届けします。

真田 美寛の写真
インタビュイー

真田 美寛

人事統括本部 人事管理本部 労務部 労務パートナーユニット

株式会社SmartHR 人事統括本部所属。人事サービス企業、IT企業で労務の経験を積み、5社目のキャリアとして2022年6月にSmartHRに入社。現在は労務パートナーユニットのチーフを務める。

繰り返されるCSV連携。給与計算を重くしていた「データの分散」

まず、リプレイス前の業務実態から見ていきましょう。

当時、SmartHR社の給与計算業務にかかる工数は、毎月5.5営業日。最初の2営業日で約1,500名分の勤怠を締め、残りの3.5営業日で給与計算とチェック作業。これを最大5名体制で進めていました。

大変さの根底にあったのは、労務手続き・従業員データの管理はSmartHRや表計算ソフト、給与計算は別のシステムと、データが分散していたことでした。基本給や手当、住所の変更といった毎月発生する変更データをSmartHRからCSVでダウンロードし、給与計算システムにアップロードする。この手作業が、給与計算の週には何度も発生していました。

真田の写真

データ形式が合わない、アップロードできない、というのは「あるある」でした。1件ひも付けを間違えたせいで、数百件のデータを手で直したこともあります。手作業が発生する以上、そこは絶対にミスの温床になるんです。

真田

さらに、チェック作業期間中にも「この変更だけ急ぎで反映してほしい」といった依頼が都度発生し、そのたびにCSVを作り直してアップロード。計算結果は表計算ソフトに出力し、関数と目視で突合。連携やチェック作業は集中して行う必要があるため、連絡の少ない夕方以降にまとめて対応するのが常で、給与計算に取り掛かる週は多くのメンバーが遅くまで残っていました。

繰り返しになりますが、真田は「以前のシステム自体は、CSV連携以外は完成度が高く、不満はなかった」と振り返ります。つまり課題はシステム単体の良しあしではなく、従業員データと給与計算が別システムに分かれている構造そのものにあったのです。

この構造を解消することは、給与計算期間中の担当者の負担軽減や手作業によるミスへの不安を払拭し、給与計算を正確かつ持続可能に運用できる体制構築につながります。SmartHRがリプレイスに踏み切ったのは、将来にわたって給与計算を支える仕組みに変えるためでした。

リプレイス前のシステム構成図。SmartHRと旧給与計算システムをCSVの手作業連携でつなぐ構成。

リプレイス前の給与計算の業務フロー

リプレイス最大の壁は「履歴データのクレンジング」

では、将来にわたって給与計算を支える仕組みへ移行するうえで、何が一番大変だったのでしょうか。真田の答えは明確でした。

真田の写真

それは絶対に「履歴データのクレンジング」です。私は過去のキャリアも含めて給与計算システムのリプレイスは今回が3回目でしたが、いつもデータクレンジングが一番大変なんです。

真田

SmartHR社では、もともと社会保険・労働保険の手続きの効率化を主目的にSmartHRを活用してきた経緯から、履歴データを手続きの「作業日ベース」で登録する運用を続けていました。たとえば、8月1日付で手当額を変更する従業員がいたとして、7月中に変更を登録した場合、作業日ベースでは7月開始の履歴として記録されます。

この「作業日ベース」の登録は、手続き業務ではまったく問題ありませんが、SmartHR社の給与計算では前月末時点の従業員データを参照するため、変更後の手当額が本来より1か月早く、8月支払いの給与に反映されてしまいます(SmartHR社は当月分翌月払いのため、8月1日付の変更は本来9月支払い分から反映されるべき)。そのため、登録作業が7月中であっても、履歴の開始日は作業日ではなく、実際の発生日である8月1日とする必要があるのです。

作業日ベースの履歴登録が給与計算に与える影響を示す図。8月1日付の手当額変更を7月開始の履歴として登録すると、本来より1か月早い8月支払いの給与に反映されるため、履歴の開始日を実際の発生日である8月1日に修正する必要がある。

「作業日ベース」の履歴を修正する理由

そこで労務チームでは、「履歴は発生日ベースで登録する」運用を人事内に共有し、リプレイス後は作業日ベースの登録はなくなりました。さらに、今回のリプレイスを今後のデータ活用に向けて従業員データを整える機会と捉え、給与計算に関係する必須項目以外の履歴の開始日・終了日・内容もあらためて確認し「発生日ベース」に整えました※。

※SmartHRの給与計算機能の導入にあたり必要な修正範囲は、SmartHRの給与計算機能が参照する項目のみです。それ以外の過去の履歴データの修正は、給与計算の稼働にあたって必須ではありません。

リプレイスを機に履歴を修正する作業は大変でしたが、そこには価値があったと言います。

真田の写真

給与計算システムのリプレイスが、過去のデータを正しくする強制力になりました。従業員データの履歴が正しく整ったことは、配置や育成の最適化、離職リスクの早期発見など、これからのデータ活用の基盤として大きいです。

真田

インタビュー中のSmartHR真田の様子を収めた写真

SmartHR 真田

こうやったらうまくいく「リプレイスの進め方」

SmartHRの給与計算機能は2025年6月にリリースされました。SmartHR社内ではリリース前から、プロダクト開発と並行してリプレイス準備を進めています。その経験から得られた、進め方のポイントは、大きく2つあります。

要件をMUSTとWANTに分ける

  • MUST:正しく給与計算できること(例:年末調整機能)
  • WANT:担当者の負荷が下がること(例:月中退職者の日割り自動計算)
    • WANT機能が足りない場合は、運用や仕組みの変更でカバーすると割り切る

並行稼働で全項目を一致させる

  • 旧システムと新システムの両方で給与計算を回し、計算結果が全項目一致することを確認しながら移行する

SmartHR社でのリプレイスで特筆すべきは、これだけの大がかりな移行を経ても、従業員側の体験はほぼ何も変わらなかったことです。給与明細はいつもどおりの日に届く。リプレイスの舞台裏にある大変さを従業員に感じさせないまま、裏側の仕組みだけが入れ替わっていました。

SmartHRの従業員数は増えても、給与計算の負担は軽減

リプレイスの成果は、数字にはっきり表れています。

  • 給与計算の担当者:最大5名 → 4名
  • 給与計算期間:5.5営業日 → 5営業日
    • ※SmartHR社の従業員数は増加

最大の要因は、労務手続き・従業員データ・給与計算がSmartHRにひとつながりになったことです。入退社・異動・給与改定などの手続きで更新された最新の従業員データが、ボタン1つでそのまま給与計算に反映されます。リプレイス前に毎月何度も発生していたCSVの作成・加工・アップロードは、作業そのものが消えました。手作業がなくなれば、手作業に起因するミスの余地もなくなります。

リプレイス前後のシステム構成の比較図。リプレイス前は、SmartHRと旧給与計算システムをCSVの手作業連携でつなぐ構成。リプレイス後は、労務手続き・従業員データ・給与計算がSmartHR内でひとつながりになった構成を示している。

リプレイス前後の給与計算の業務フロー比較

操作感は「まるで別もの」だった

リプレイス後の成果として、もうひとつ真田が挙げるのがシステムの操作性です。

真田の写真

一番素晴らしいのは、マニュアルを見なくても使えることです。今までのシステムは、わからないことがあればまずマニュアルを見に行くのがデフォルトでした。SmartHRは「この辺にありそうだな」と思ってボタンを押すと、想定したとおりの結果が出てくるんです。

真田

具体的な場面を3つ挙げてもらいました。

1. 計算過程まで確認できる

従来は、手当などの金額が間違っていることはわかっても、どの区分の組み合わせでその数字になったのかが見えず、原因箇所の特定に時間がかかっていた。SmartHRでは計算過程が表示され、原因をその場で特定できる

2.給与一覧表を直接編集できる

従来は一覧画面や表計算ソフトで誤りを見つけたら、該当従業員の画面へ移動。さらに該当項目の画面へ移動して修正する必要があったが、SmartHRでは一覧のセルをクリックしてその場で修正できる

3.手動修正のマークが再計算後も残る

従来のシステムは再計算すると手動修正した値が消えるため、表計算ソフトでイレギュラーメモを管理し、再計算のたびに入れ直していた。SmartHRは修正したセルに修正履歴のマークが残り、値も保持される

1つ目の機能は、真田が「これができたら、限りなく理想に近い給与計算システムになる」とかねて要望したもの。開発チームへのフィードバックを経て実装されたユーザー目線のアップデートです。

仮に他社の労務責任者になってもリプレイスする?

リプレイスの大変さも知ったうえで「もし他社の労務責任者だったら、それでも導入するか?」という忖度なしの質問をぶつけました。

真田の写真

絶対入れますね。仮に私がいつか転職したとして、転職先でSmartHRを使っていなかったら、必ず導入したいと思えるシステムですし、これからも進化し続けると思っています。

真田

決め手は、最大の課題だった手作業のデータ連携が解消されることに加え、開発への信頼だと言います。「アップデートして出てくるものが、ユーザー目線で、業務を点ではなく面で捉えられている」。労務チームからも「リプレイスしてよかった」という声が上がっています。

インタビュー中のSmartHR真田の様子を収めた写真

リプレイスを検討しているご担当者へ

最後に、リプレイスを迷っている人事・労務担当者へのメッセージを聞きました。

真田の写真

SmartHRの給与計算機能と、導入に伴う運用整理で、当社の場合は担当者1人分に相当する工数削減の効果がありました。正確性の向上という意味でも大きな価値があります。それから、給与計算システムを使うこと自体が、正しいデータを蓄積する前提になる。これからはデータをいかに活用できるかが人事・労務の重要テーマになると思います。その基盤づくりという副次的な価値も含めて、検討してみてほしいです。

真田

「正直不満はなかった」システムからのリプレイスは、たしかに簡単ではありません。最大の壁である履歴データのクレンジングは地道な作業ですし、並行稼働にも一定の期間が必要です。それでも、壁の正体と乗り越え方がわかっていれば、リプレイスは計画できます。

そしてこのリプレイスは、目の前の工数削減にとどまらず、正しい従業員データを蓄積していくための基盤づくりでもあります。「不満のないシステム」からの一歩には、その先の価値まで含めて検討する意味があります。

※掲載内容は取材当時のものです。

執筆/撮影:株式会社ビズリフレ

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