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公開日:2025/12/25

IdPとは? 知っておきたい認証基盤の仕組みと運用効率化の手順

目次

情報システム担当者や、総務・人事を兼任しながらSaaSの管理を行っている方の中には、社内で利用するSaaS(クラウド型アプリ)が増えるにつれて、パスワード管理やアカウント対応が煩雑になってきたと感じている方も多いのではないでしょうか。

入退社や権限変更のたびに対応が必要になり、負担に感じる場面もあるかもしれません。

こうした課題に対して、IdP(Identity Provider)を取り入れることで、管理の手間を軽減できるケースがあります。

本記事では、IdPの基本的な仕組みや役割をはじめ、実務でどのように活用できるのかを解説します。

IdPが注目されている背景や、導入によって期待できることも紹介していますので、理解を深めるためのヒントとして参考にしてみてください。

IdPとは

IdP(アイディーピー/Identity Provider)は、アプリやクラウドサービスへのアクセス時にユーザー情報を管理し、自動で認可を行なう仕組みです。

業務システムの増加により、従業員一人ひとりが多くのパスワードを管理するようになりました。その結果、管理の手間や情報漏えいのリスクが高まっています。

IdPを導入すると、1回のログインで複数のサービスにアクセスできる「シングルサインオン(SSO)」が利用可能です。セキュリティを保護しながら、業務効率の改善にも貢献します。

IdPの役割

ユーザーがIdPを介してクラウドサービスにアクセスする認証フローを示す図

IdPの主な役割は、ユーザーの本人確認を行い、その認証結果をサービス提供者(SP:Service Provider 以下SPと記載)に安全に伝えることです。SPはその情報を基にログインを許可します。

また、IdPは認証の安全性を高めるため、「多要素認証(MFA:Multi-Factor Authentication)」を組み合わせるケースもあります。多要素認証とは、パスワードに加えて、スマートフォンの認証や指紋などを組み合わせて本人確認を行う方法です。

さらに、IdP経由でアカウントを管理すると、社内のアカウントを一元管理できます。各システムでIDとパスワードを個別に発行する手間が減り、管理者の負担を軽減できます。

IdPは従業員と各サービスを安全につなぐ「認証のハブ」として、シングルサインオン(SSO)による利便性やMFAによるセキュリティ強化の両立を担っています。

1分でわかる!SmartHRのシングルサインオン(IdP機能)

お役立ち資料

1分でわかる!SmartHRのシングルサインオン(IdP機能)

IdP機能は、SmartHRにログインするだけで、社内で利用中のサービスにワンクリックでログインできる機能です。SSO(シングルサインオン)が可能になり、パスワードの管理やログインの手間を軽減します。本資料では、IdP機能の概要や特徴、導入による効果を紹介します。

この資料でこんなことが分かります

  • SmartHRのIdP機能とは
  • SmartHRのIdP機能の特徴
  • 便利な機能と導入による効果
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IdPで活用されるSAML認証とは

IdPで使われる認証方式のうち、広く利用されているのがSAML(Security Assertion Markup Language)認証です。SAMLとは、ユーザーのログイン情報を安全にやり取りするための共通ルール(プロトコル)です。

SAMLでは、利用者がIdPで本人確認に成功すると、IdPが「アサーション」と呼ばれる電子的な証明書を発行します。利用先のサービス(SP)は、この署名を検証して信頼できる情報であると確認し、ログインを許可する仕組みです。

多くの企業向けクラウドサービスがSAML認証に対応しており、複数のシステムを安全につなぐ仕組みとして活用されています。

IdPとSPの違い

IdP(Identity Provider)とSP(Service Provider)は、シングルサインオン(SSO)を実現するために欠かせない要素です。下表に、IdPとSPの違いを整理しました。

項目

IdP(Identity Provider)

SP(Service Provider)

主な役割

本人確認・認証情報の発行

サービス提供・アクセス管理

管理する内容

ID・パスワード・属性情報

ユーザー利用データ

主な機能

認証(ログイン)

認可(利用権限)

Microsoft Entra ID、Okta、SmartHR

Google Workspace、Salesforce

IdPは利用者の身元を確認する「認証の窓口」、SPはその認証結果を受けてサービスを提供する「利用先」です。

IdPがユーザーのIDやパスワードを管理して本人確認を行い、その結果を証明書(アサーション)としてSPに送信します。SPはその情報をもとにログインを許可します。このようにIdPとSPが連携することで、ユーザーは1つのアカウントで複数のシステムを安全に利用できる仕組みです。

シングルサインオンの仕組みを理解しておくと、自社システムのセキュリティ設計やクラウド連携を検討する際に役立ちます。

IdPが注目される背景

近年、IdPが注目される背景には、IT環境の変化があります。次の観点から、IdPの需要が高まっている背景を見ていきましょう。

  • 業務アプリ・SaaS利用の拡大
  • アカウント管理意識の向上

業務アプリ・SaaS利用の拡大

企業で活用される業務アプリケーションやSaaSは、近年急速に増加しています。以前はメールや表計算ソフトなど限られたツールで業務が行われていましたが、今では勤怠管理、経費精算、チャット、ファイル共有など、多様なサービスが日常的に利用されています。リモートワークの普及により、社外からアクセスできるSaaSの需要も一層高まりました。

一方で、アプリが増えるほどIDやパスワードの管理は複雑になり、部門ごとにツールが導入されてしまうケースもあります。IT部門が全体を把握しにくくなることで、脆弱性管理やアクセス統制が追いつかない場面も出てきます。

こうした課題を解決する手段として注目されているのが、IdPを活用したシングルサインオン(SSO)です。IdPを導入すれば、一度のログインで複数のアプリに安全にアクセスでき、パスワード管理の負担やリスクを大幅に軽減できます。

多様なアプリを安全かつ効率的に利用するうえで、IdPによる統合的な認証基盤が役立つケースもあります。

アカウント管理意識の向上

企業のセキュリティ意識が高まる中で、アカウント管理の重要性も改めて注目されています。パスワードを各自で管理する従来の方法では、セキュリティリスクを十分に防ぎきれません。

近年はランサムウェアやフィッシング詐欺といったサイバー攻撃が増加し、情報流出は企業の信用や法令遵守に関わる重大な経営課題となっています。とくに退職後にアカウントが残ったままだと、不正アクセスにつながりかねません。

一方で、情シス部門では入社・異動・退社のたびにアカウント作成や削除を手作業で行なうケースも多く、作業が煩雑になるほどミスや対応漏れのリスクが高まります。従業員側も、管理すべきパスワードが増えることで使い回しや紛失といった問題を抱えやすくなっています。

こうした課題に対するアプローチのひとつが、IdP(Identity Provider)を活用した認証・アクセス管理の仕組みです。IdPを利用することで、複数のサービスへのログインやアクセス権限を一元的に管理しやすくなります。

さらに、人事情報や各SaaSと連携することで、入退社に伴うアカウント作成・削除を自動化し、管理負荷や対応漏れを抑えやすくなります。

IdPで実現できる3つのこと

IdPは、アプリケーション管理の複雑化やサイバー攻撃を背景に導入が進んでいます。企業がIdPを導入すると、アカウント管理の効率化やセキュリティ強化に加えて、次のような効果も得られます。

  1. 運用効率化
  2. セキュリティ強化
  3. ユーザーの利便性向上

(1)運用効率化

IdPを導入すると、アカウント管理を自動化でき、運用の効率化が進みます。

従来は入社・異動・退社のたびに、情シス担当者が各サービスでアカウントの作成・権限設定・削除を手作業で行っていました。たとえば10種類のクラウドサービスを利用していれば、同じ操作を10回繰り返す必要があります。

こうした課題はSCIM(System for Cross-domain Identity Management)を使うことで解消できます。SCIMは、IdPとSaaS間でアカウント情報を自動的に同期するための標準仕様です。退職者の情報をIdP上で無効化すれば、SCIM連携に対応したSaaS側でも自動的にアカウントが無効化・削除されます。これにより、削除漏れによる不正アクセスを防ぎ、不要なライセンス費用も削減可能です。

IdPを活用すれば、無駄を防ぎ、少人数でも正確で効率的な運用を実現できます。

(2)セキュリティ強化

従来のように、従業員がサービスごとに異なるパスワードを設定・管理する方法では、使い回しや漏えいのリスクは避けられません。一方、IdPを導入すれば、利用者は一度のログインで複数のサービスへ安全にアクセスできます。その結果、パスワードを覚える手間がなくなり、管理ミスや漏えいのリスク低減につながりやすくなります。

また、従来のSMS認証やワンタイムパスワードは、フィッシング攻撃に弱い点が課題です。IdPでは多要素認証(MFA)を一元管理できるため、各サービスでバラバラに設定していた認証方法を統一し、安全性の高い仕組みに移行できます。

さらに近年では、MFAの一要素として「パスワードレス認証」への移行も進んでいます。なかでも注目されているのが「パスキー」です。パスキーを利用すれば、指紋認証や物理セキュリティキーによるパスワードレス認証をIdP上で集中管理でき、強固で運用しやすい認証基盤を構築できます。

そのほか、IdPはアクセス状況の可視化にも役立ちます。IdPを経由した認証ログイン履歴を一元的に監査できるため、ユーザーがいつ、どのサービスにアクセスしたかを把握可能です。これにより、社内不正の早期発見や、監査法人・取引先への報告資料としても活用できます。

(3)ユーザーの利便性向上

IdPを導入すると、ユーザーのログイン操作を減らし、業務の効率化が図れます。シングルサインオン(SSO)機能により、1回のログインで複数のクラウドサービスにアクセスできるため、都度パスワードを入力する手間がなくなるからです。

従来は、メール・チャット・営業管理・ファイル共有など、サービスを切り替えるたびにログインが必要でした。さらに情シス部門では、ユーザーからのパスワードリセット依頼への対応も発生していました。

IdPによるSSOを導入すれば、一度のログインで自動的にすべてのサービスへアクセスできます。裏側では、IdPと各SaaSが連携して情報をやり取りするため、利用者が個別に操作する必要はありません。この仕組みにより、業務の中断やストレスが減り、生産性の向上につながります。

また、パスワードを覚える負担がなくなることで、ユーザーは本来の業務に集中しやすくなります。結果として、情シス部門への問い合わせ件数も減少し全社的な業務効率化に寄与するでしょう。

SmartHRのIdP機能を導入した企業では、SSO専用ツールで発生していた約25万円/月のコストを削減。さらに、CSV作成やアップロードといった連携作業をほぼゼロにし、運用工数を抑えられた事例もあります。

SmartHRを“業務の入口”として活用することで、従業員の利便性とセキュリティを両立する事例も増えています。

IdPが抱える3つの課題

IdPは、シングルサインオンや多要素認証などで、利便性と安全性を高めるシステムです。しかし、導入・運用の過程では、次のような課題が残っています。

  1. サイバー攻撃の標的となりやすい
  2. システム障害時の影響が大きい
  3. 導入後の運用・管理がスムーズに進まない

上記の課題を把握したうえで、運用設計・障害対策・人員体制をあらかじめ整えることが、IdPを安定的に活用する鍵となります。

(1)サイバー攻撃の標的となりやすい

IdPは、企業が利用するすべてのクラウドサービスへの「入り口」を一元管理する仕組みです。その分、攻撃者にとっては最も狙いやすい標的にもなります。

従来は、各サービスごとにアカウントを個別管理していたため、1つが侵害されても被害は限定的でした。しかし、IdPを導入すると、1つのアカウント情報が盗まれただけで、複数のサービスに不正にアクセスされる恐れがあります。攻撃者にとっては効率的で、被害規模の大きい攻撃対象になるのです。

近年では、IdP管理者を狙ったフィッシング詐欺や多要素認証(MFA)を悪用した攻撃も増えています。

こうしたリスクを防ぐには、フィッシングに強い認証方式を採用することが重要です。たとえば、SMSやワンタイムパスワードのように盗まれやすい手段ではなく、指紋認証やセキュリティキーを用いた「パスキー認証」を導入することで、安全性を高められます。

(2)システム障害時の影響が大きい

IdPは、従業員が利用するすべての業務システムへのログインを一元的に担う仕組みです。そのため、システム障害が発生すると影響範囲が広くなります。IdPが停止すると、社内のSaaSにアクセスできなくなり、全社的な業務停止を招く恐れがあります。

従来のようにシステムごとにログインしていた場合は、一部の障害でも他の業務を継続できました。しかし、IdPでは1箇所の障害が全体に波及します。

こうしたリスクを軽減するためには、稼働率(SLA)が明示されたIdPを選ぶと、より安心につながります。併せて、障害発生時に備え、ローカルアカウントで緊急ログインできる仕組みを準備しておきましょう。

また、運用面では証明書の更新作業にも注意が必要です。たとえば、SAML連携用の証明書には有効期限があり、更新を忘れると認証が急に使えなくなり、業務が止まってしまう恐れがあります。更新漏れを防ぐには、有効期限の管理と更新手順のマニュアル化が有効です。

(3)導入後の運用・管理がスムーズに進まない

IdPは、導入後の運用設計が非常に重要です。誰が設定や監視を担当し、権限をどう統制するのかを、事前に決めておかなければなりません。管理が属人化したり、内部監査や外部監査で不備を指摘されたりすると、適切な運用とはいえません。

導入時には、運用設計とあわせてガバナンス体制を事前に整えることで、より運用しやすくなります。権限やグループ設計が曖昧なままだと、本来アクセス権を持たないユーザーがアプリにログインできる恐れがあります。また、退職者アカウントの無効化が遅れると、不正アクセスの原因にもなりかねません。

導入後は、アカウントや権限の変更履歴を自動記録し、監査証跡として残す仕組みを整えましょう。操作履歴を可視化すれば、後から検証できるだけではなく、異常ログインや多要素認証の失敗回数を監視して、セキュリティインシデントを早期に検知可能です。

SmartHRを利用している場合は、IdP機能を人事情報と連携させることで、入退社時のアカウント更新を効率化できます。担当者の作業を削減しながら、セキュリティ水準を一定に保つ運用が可能です。さらに、SmartHRの「情シス向け権限」を活用すれば、人事情報を閲覧せずにアカウントを安全に管理できます。

SmartHRのIdP機能でログイン情報を管理してみませんか

IdPは、SaaS利用が広がる中で、認証やアカウント管理を無理なく整理していくための選択肢の一つです。自社の体制や課題に合わせて取り入れることで、日々の運用負荷やセキュリティ面の不安を軽減できる場面もあります。

そうした選択肢の一つとして、SmartHRのIdP機能も参考にしてみてください。

IdP(Identity Provider)は、複数のクラウドサービスの認証をまとめて扱える仕組みで、シングルサインオンによって業務効率とセキュリティの両立を後押しします。

多要素認証やアカウント管理の効率化にも対応しており、情報漏えいリスクの低減や、日々の運用負荷を抑えやすくなる点も特徴です。環境に合わせてIdPを取り入れることで、より安定した運用につながるケースもあります。

SmartHRのIdP機能では、人事情報を起点にアカウントのライフサイクル管理とシングルサインオンを一体的に扱えます。入社情報の登録と連動して、あらかじめ設定した各SaaSにも反映されるため、手作業による設定負荷の軽減につながります。人事・労務とアクセス管理が自然に連携することで、セキュリティを保ちながら、運用の見通しも立てやすくなります。

1分でわかる!SmartHRのシングルサインオン(IdP機能)

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1分でわかる!SmartHRのシングルサインオン(IdP機能)

IdP機能は、SmartHRにログインするだけで、社内で利用中のサービスにワンクリックでログインできる機能です。SSO(シングルサインオン)が可能になり、パスワードの管理やログインの手間を軽減します。本資料では、IdP機能の概要や特徴、導入による効果を紹介します。

この資料でこんなことが分かります

  • SmartHRのIdP機能とは
  • SmartHRのIdP機能の特徴
  • 便利な機能と導入による効果
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監修者

星陽介

SIerでキャリアをスタートした後、大手製造メーカーにて海外拠点向けのアプリケーション・セキュリティ・インフラ基盤を含む幅広い領域を担当。

保有資格は情報処理技術者試験の高度区分6区分(ITストラテジスト・システム監査技術者・プロジェクトマネージャ・システムアーキテクト・情報処理安全確保支援士・データベーススペシャリスト)に加え、英検1級。

技術力と実務知見を活かし、専門性の高い内容をわかりやすく伝えることをモットーに活動中。IT・英語の専門性を強みに、IT系の記事監修・コンサルティング・翻訳業務に従事している。

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執筆者

SmartHR コラム編集部

SmartHRコラムはお客さまの課題解決をサポートするメディアです。機能解説やイベントレポートなどの情報をお届けします。

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